RD15HVF1リニアアンプ [リニアアンプ]
前回はRD06HVF1用の回路そのまま使用したものだったので、これを最適化し汎用的に使用できるようにしてみた。
【出力回路】
前回の実験ではインピーダンス変換トランスは5Wの為1:4であったが、MAX10W程度を考えて、
o=(Vcc-Vsat)^2/2RL 10=12^2/2RL RL=144/20=7.2
7.2:50に近い変換トランスとしてトロイダルコアを使用した1:9変換回路とした。
始め図に(A)として記載してあるコア1個を使用したトリファイラ巻き(3重)で実験してみたが、出力が大きいときにコアが結構熱くなったため、図い示した(B)のコア2個を使用したものを採用した。こちらではあったかくなる程度で済んでいる。出力はどちらもほぼ同じ傾向であった。
28MHz、50MHzでの使用を前提に周波数特性改善のためにコンデンサーでの補正を試みた。ドレインとアース間にコンデンサーを追加。カットアンドトライで270pFとした時50MHzで2dBアップとまずますの出力特性となった。変換トランスのOUT側をアース間にも小容量のコンデンサーを挿入することにより低域側が改善される場合がある。今回の場合、コア1個トリファイラ巻きの場合10pF程度で改善が見られた。コア2個の場合は、効果が見られなかった。
まとめると
・ 変換トランスは、FT50-43バイファイラ巻き(2重)8回巻きを2個使用した1:9トランス。線は0.5mmポリウレタン線。コアはFT50-61も実験してみたが、43材のほうが広域で良好であった。
・ ドレインとアース間にコンデンサーを挿入すると広域側(30MHZ以上)で特性補正が期待できる(今回は270pFを挿入)
・ 変換トランスの出力側とアース間にコンデンサー挿入(今回はなし)すると低域側(HF帯)で特性補正が期待できる。
【RFC】
RFCも適当なものを使用する場合が多いが、時として悪さをする場合がある。出力インピーダンスが低いため、そんなに大きくする必要もない。今回はトロイダルコア活用百科を参考にFT50-61 6回巻き(0.8mmポリウレタン線)を使用した。
【入力回路】
一番の難所である。FETの入力インピーダンスは、データシートからみるとそんなに高くない。よってインピーダンス変換回路で50Ωから下げて使うことが予想される。数少ない使用例でも33Ωでシャントしていたりする。このことから色々実験してみたが、どうも芳しくない。直結の場合のほうが良い結果であった。また、入力容量をキャンセルするためにインダクタを挿入する例もある。入力容量とインダクタでローパスを構成するようにしてキャンセルするというような使い方もあるようだ。しかしながら計算どおりにはいかない。そんなことで色々試していたが、JH8SSTさんからコメントを頂き、0.7uH辺りで改善ができたとのご報告を頂き、早々これを参考に実験してみた。コアT25-6に0.27mmポリウレタン線16回巻きからはじめて、少しずつ減らしてみた。12回でHFでは改善が見られたが、50MHzでは悪くなった。結果8回巻きで50MHzも含めて改善が見られたので、8回巻きとした。
・ 入力回路に直列にインダクタ(T25-6 0.27mmポリウレタン線8回巻き)を挿入
【バイアス電流】
バイアス電流は、データシート通り500mAとしていたが、少し変更してみた。結果は
・ 750mA~1Aで出力最大となった。といっても0.5dB程度
・ 500mA以下では出力が減少
・ 最終的に500mAとした。
【ヒートシンク】
バイアス電流が結構大きいため、効率はトランジスタに比べ悪い。その分内部損失が増える。長時間使用を考えると大きめがいい。今回以前未使用ジャンク品で購入してあったものを使用している。これはファン付のものであるが、ファンは使用していない。確かペンティアムセルロンだかのCPU用のものだと思う。フィンが多く効果が期待できる。
【改善】
ここでの改善とは、グラフを見てもらえばわかると思うが、最高出力に近いところでの伸び、要はリニアリティの改善である。5W(37dBm)で使用したい場合、そこでリニアリティが良いことが必要になる。グラフではほんの少しに見ええるが、実際は大きな改善である。37dBmで5W、3dBmアップの40dBmで10Wである。対数グラフの特徴である。今回の適正化で2-3dBの改善はとても大きな改善である。
【まとめ】
ここまで三菱の高周波パワーFETの実験を一通り行ってみた。バイアス電流が大きめであることから、効率がいいとは言えないが、安定してHF~50MHzの広帯域として使用できそうである。高周波パワートランジスタがディスコンとなっている現在、貴重な存在と思う。もっと使用例がWEBにアップされてもいいのではないだろうか。
IMD等ひずみの面で評価はしていないが、RD15HVF1,RD16HHF1を5W、RD06タイプを3W程度で使用すればリニアリティ等をみて、歪もそんなに悪くないと推測される。
注意:入力が20dBm(100mW)を超えるとFETがあっというまに破壊される。サチュレーション(飽和)領域がデータシートのようにはならない。
以上皆様の参考になれば幸いです。ご意見等があればコメントをお願いします。
JA2NKD OM、素晴らしい実験結果をご報告下さいまして大変ありがとうございます。この回路、RD15HVF1の標準回路として今後、普遍的に使われていくだろうと思います。
私が検討しようとしていたことは、OMが全て詳細に検討されましたので、もう実験する必要がなくなってしまいました。早速この回路でエッチング墨の基板を組み立て、計画している21メガの送信機に使いたいと思います。
このFETを使いたいと思っていながら、どうやって使うのがいいのか良く判らない状態で躊躇逡巡していた(私もそうです)多くのマニアが渇望していた情報と思います。これで、多くのマニアがディスコントランジスター確保の苦労から開放されることは確実と思います。
by JH8SST/7 (2012-12-08 19:46)
コメント 有難うございます。
実験としては、取り敢えず実用範囲までできたと思いますが、まだまだ解決できていない部分もあります。また、歪等のデータも取っていません。できるだけ入手可能な部品で、再現性のあるものとなればよいのですが。引き続き実験したいと思います。
by JA2NKD (2012-12-09 17:09)
この回路の素晴らしいところは、1:9のトランスを使用すると、あるいは、ドレイン・アース間コンデンサーを入れるとどのように性能が改善されるのかということを実験に基づいて明確に示されていることだと思います。これにより、何故ドレイン・アース間にコンデンサーが接続されているのかなど、このような回路構成になった理由が極めて判りやすくなっています。
アマチュア自作無線機のファイナルとして定番になっていくことは間違いないと思います。できるだけ多くの方に製作してもらえれば再現性の高さも実証されていくものと思います。
ところで、OMの実験では効率は何%程度でしたでしょうか。私の実験では、30%台でした。これほどの高感度で、最大出力が10Wに達し、5W強いまでは完全に直線性が成立しているという素晴らしい性能が得られるので、効率を問題にする必要は全く無いとは思うのですが。
by JH8SST/7 (2012-12-11 10:28)
効率は30MHz 5W出力で35.2% 50MHzで37.3%でした。確かにこのシリーズは効率が良くありません。然しながらトランジスタなら2段必要なところが1段で済むことを考えればマイナス要素とはならないと思います。固定で使うなら気にならないと思います。
さらに回路の簡素さがいいですね。ケースバイケースでトランジスタと使い分けていけばいいと思います。最近のシリコントランジスタにもHFなら十分な性能が期待できるものがあるのではないかと思います。そんなものを探し出して使ってみるのも面白いと思います。
このFETを使う予定のトランシーバーの製作記事をブログ「JA2NKD無線工房(その2)」に書き始めました。AM用ICや古いAM変調用ICなどを使っています。どんなものに仕上がるのか楽しみながらぼちぼちやっております。
コメント有難うございました。
by JA2NKD (2012-12-11 21:46)
効率の件、ほぼ同じですので、再現性が十分ありそうですね。他の性能の高さを考えると、効率が30%台と低いことは全く問題にする必要は無いと思います。
トランジスターで現在確実・安価に手に入るのは2SC2078だけではないかと思いますが、これは50メガには少々物足りないのが難点です。この他に、2SC5610という石がRF用ではないものの結構使えそうで、CBをやっているヒトが試用しているのを見掛けました。
SSB用ファイナルに使える、新しいトランジスターがあればいいのですが、良く判りません。
トランシーバーの記事、楽しみにしております。
兎に角、回路が簡素であることと性能の高さがこの回路の突出した特徴と思います。皆さんにも是非組み立てて頂きたいと思っています。
by JH8SST/7 (2012-12-12 09:12)
貴重なデータをありがとうございました。
最近、RD16HHF1を利用したアンプを実験中です。
なかなかデータシートどおりにいかないで難儀しています。Hi
by JA8JPO (2013-02-27 11:06)
JA8JPOさん コメント有難うございます。
いまこのアンプを使ってトランシーバーを作っていますが、前段(ドライバーアンプ)とのマッチングによっては、コイルが無いほうがいい場合もあります。
なかなか簡単にはいきません。
データーシートのように飽和領域はいきませんでした。FETが衝天します。
効率を考えるなら狭帯域同調式がいいですね。
by JA2NKD (2013-02-27 20:52)
広帯域と狭帯域同調の差はちょうど2倍あると思います。
同調コイルがあると半波のマイナス部分が修正され全波が出力されます。
by JA8JPO (2013-03-01 07:48)
JA8JPOさん コメント有難うございます。
まさにタンク回路ですね。真空管時代の死語かな。しかし広帯域でももう少し粘って欲しいのですが、突然プツンです。
MRF225の時も狭帯域では一度も飛んでいません。広帯域は突然プツンでした。この辺りはコイルにより柔軟に吸収できるのかも知れません。
今製作中のトランシーバーはAMなのでRD15HHF1で最終的に4WOUTです。広帯域では余裕が必要のようですね。
by JA2NKD (2013-03-02 19:12)